休息の話に戻る 一休禅師【道歌問答】

■ 道歌問答集 ■

幼少より頓知で有名な「一休」さん。屏風の虎退治は有名な話ですね。
室町時代の臨済宗の高僧一休さんのお話を一つ。
傾倒した恩師「謙翁」の死去の際に、1週間の断食ののち入水自殺を計った
が・・しかし死ねない自分に自問自答
こだわりを捨てた時、悟りが開かれ、堅田の船の中で一句詠みます。
「有漏路(うろじ)より無漏路(むろじ)に帰る
一休(ひとやすみ)雨降らば降れ風吹かば吹け」
所詮、人生とは無から生まれ無へ帰る刹那の一時、
ここに 一休宗純の誕生です。


では一休と蜷川新右衛門(にながわしんえもん)
  句号【親当(ちかまさ)】の禅問答ですよ。

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 親当は一休に尋ねる 邪正一如とは何か?
(邪と正とは別々ではなくて、一つの心から
 出たものだから、もとは同一という事)とは?

一休は歌で答える。
 「生まれては 死ぬるなるけり
  おしなべて 釈迦も達磨も猫も杓子も」


 親当は 空即是色とは何か?

一休は歌で
 「白露の おのが姿は 其のままに
  もみじにおける くれないの露」


 親当  色即是空は如何に?

一休は
 「花を見よ 色香も共に 散り果てて
  心無くても 春は来にけり」


 親当  仏法とは一口に言えば?

一休「仏法は なべのさかやき 石のひげ
   絵にかく竹の ともずれの音」

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『道歌問答』

一休・・門松は めいどのたびの一里塚
   馬かごもなく とまりやもなし・・

 親当・・年越は めいどの旅の問屋場か
   月日の飛脚 あしをとどめず・・・

一休・・光陰は 矢ばせを渡る舟よりも
   はやいとしらばすえを三井寺・・

 親当・・分限に 粟津にゼゼをつかうなよ
   こころ堅田に しまつからさき・・

一休・・金銀は 慈悲と情けと義理と恥じ
   身の一代に つかうためなり・・・

 親当・・世の中に 負者有徳者苦者楽者
   なん者か者とて末はむしゃくしゃ・

一休・・今日ほめて 明日わるく言う人の口
   泣くも笑うも 嘘の世の中・・・・

 親当・・世の中に 乗合舟のかりすまい
   よしあしともに 名所旧跡・・・

   一休も やぶれ衣で出る時は
   乞食坊主と人はいうらむ・・・

一休・・袈裟衣 有り難そうに見ゆるども
   これも俗家の他力本願・・・

 親当・・衣よりケサより俗の古襦袢
   おのが技量できるぞとうとき・

一休・・振袖と留袖とこそかわれども
   裸にすればおなじカラダよ・

 親当・・骨かくす皮には誰も迷いけん
   美人というも皮のわざなり・・・

一休・・皮にこそ男女のへだてあれ
   骨にはかわる人かたもなし・・

 親当・・なにごとも みな偽りの世なりけり
   死ぬるというもまことならねば・

一休・・生まれては死ぬるなるけりおしなべて
   釈迦も達磨も猫も杓子も・・・

 親当・・さとりなば坊主になるなさかなくえ
   地獄へいって鬼にまけるな・・

一休・・鬼という恐ろしいものはどこにある
   邪見の人のむねにすむなり・・

 親当・・極楽や地獄があるとだまされて
   よろこぶ人におじる人々・・・

一休・・この世にて慈悲も悪事もせぬ人は
   さぞや閻魔もこまりたまわん・

 親当・・地獄とは何をいまわのこけむしろ
   いろと欲とで身をやぶる人・・

一休・・死んでから 仏というもなにゆえぞ
   小言もいわず邪魔にならねば・

 親当・・死んでから 仏になるはいらぬもの
   活きたるうちによき人となれ・

一休・・追善に会うた仏が盆棚へ
   としどしくればうかむせはなし・

 親当・・仏とは なんだらぼうし柿のたね
   下駄も仏も同じ木のはし・・・

一休・・仏にも なりかたまるはいらぬもの
   石仏らを見るにつけても・・

 親当・・迷うなよ 五輪の石の墓じるし
   つみかさなりてあると思えば・

一休・・引導は無事なるときにうけたまえ
   末期の旅におもむかぬうち・

 親当・・ひとり来てひとりで帰る道なるに
   みち教えんというぞおかしき・

一休・・ひとり来てひとりかえるも迷いなり
   きたらず知らぬ道をおしえん・

 親当・・妻や子が側でなげくもききいれず
   死んでゆく身になんの引導・・

一休・・極楽は十万億土はるかなり
   とてもゆかれぬわらじ一足・・

 親当・・歳々に悪魔外道のながさるる
   その西方にゆきたくもなし・

一休・・きのう過去きょうの現世にあす未来
   起きての神に寝ての身仏・・

 親当・・一代の守本尊をたずぬるに
   われ人ともに飯と汁なり・・

一休・・世の中はくうてかせいで寝て起きて
   さてその後は死ぬるばかりぞ・

   肉もなくよくしゃれこうべ穴賢
   めでたくかしくこれよりはなし・

 親当・・浮世をばなんの糸瓜と思うなよ
   ぶらりとしてはくらされもせず・

一休・・世の中はへちまの皮のだん袋
   そこがぬければ穴へどんぶり・

   あら楽や虚空を家と住みなして
   心にかかる造作もなし・・・

 親当・・欲あかを洗いおとせばさっぱりと
   襦袢につけしのりぞとうとき・

一休・・煩悩の眼にばばをふんずけて
   福はおしいと欲しいとのよく・

 親当・・やけば灰埋めば土となるものを
   なにかのこりてつみとなるらん・
 
一休は親当の洞察力に感服したのでした。

物語と史跡を尋ねて[一休]稲垣真美;成実堂出版


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