休息の話に戻る 【無言の問答】

■ 無言の問答 ■

このお話は、岡山地方の和尚さん・饅頭屋と雲水のお話です。一部改変しています。

さすらいの雲水!名は東念という。無言の問答を仕掛けて寺の住職を追い出してしまう雲水。
さてさて、この庵にもやって来るという。さあ、そこで登場!暇で怖い者しらずの饅頭屋の主人
和尚さんになりすまし、問答に立ち向かえるか?。さあ「笑い話」の始まり始まり〜

とある田舎の小さな町に、饅頭屋があった。あるじの名前は利吉さん
雨の降る日が続き、お客さんは来ない、饅頭も売れない。利吉さんは退屈でしょうがない
「今日はまんじゅうは売れず、お寺へでもちょこっと遊びに行ってみちゃろうか。」
心安い近くのお寺へ遊びに行った。

行ってみるに、気軽に話をしてくれる和尚さんが、沈み込んで考えこんでおった。


利吉言う 「和尚さん、和尚さん。今日は、えらい勢がないな、どうしたかい?。」

和尚「ああ なあ、この地方に雲水が来て、問答をしかける噂じゃが、明日あたりはこの庵
   へ来ることになっとるんで、もしわしが負けたら、その雲水にこの庵やってしもうて
   わしはどっかへ行かにゃならんことになる。それが心配で、考えているとこじゃよ」

利吉:「その雲水ちゅうなあ、どんな者ですかなぁ。やっぱり坊さんかなぁ。」

和尚:「坊さんじゃけえど、寺を持っとらん坊主で、あっちい、こっちい回って、修行中じゃ。
    今度は無言の問答いうて、言葉を使わずに、身振り手振りで問答するいうて聞いたんで、
    わしもちょっと困っとるとこじゃがなぁ。」

利吉:「そりゃあ和尚さん、心配ない。わしが何とかやっつけてあげますわい。」

和尚:「お前、その問答ができるかや。」

利吉:「ええまあ、言葉でなら、難しいけえども、ものを言わずに、身振り手振りで
    するんなら、何とかごまかしちゃりますらあ。」言うてくれるもんだけん

和尚:「そりゃまあ、ありがたいこと、ほんなら明日、お前代わってくれえ。」

利吉:「へえ、よろしゅうがんす。」


利吉さんは坊さんのような格好に仕立ててもろうたところが、なんとまあ立派な和尚さん
になった。和尚さんのような顔をしてからに、本堂の奥に座っとったら雲水がやってきた。


雲水:「ええ、拙僧は叡山の心念坊の弟子の東念というものでござるが、無言の問答を
    いたしとうござる。 老僧の御指導をたまわりたい。」と言うてきた。

そいから利吉さんは、「よしきた」言うたところが、雲水が最初に左手を前に出して、
人差し指と親指で輪を作って、右の手をあげた。「仏法は?」いうて尋ねたつもりだ。

ところが利吉さん、それを見て

「ははあ、お前のとこの饅頭は、これぐらいか?いうて尋ねとるな」思うたもんだから
「なあに、そんなに小さいもんじゃあない。これぐらいどもあらあ〜」という気持ちで
  両方の手で大きな輪こしらえて、ぬっと雲水の前へ差し出した。 雲水は心の中で

いかにも、いかにも「仏法は日輪のごとし」いうて解いたが、こりゃあなかなかやるぞ思うて、
今度は雲水が、「東西南北の四方は、いかに見る」というつもりで、四本の指をぬっと出した。

ところが利吉さんはそいつを見て、 ほほう、「饅頭の値段は四文か?」いうて尋ねたな。
そがいな値段で、うちの大きな美味しい饅頭を食わせるもんか。十文だぁ〜!!!思うて、

指を十本出して、口を大きく開けて、食らうような動作を、雲水に向かってしてみせた。

雲水は、「ははあ、東西南北は何もなし。十方空(くう)と解いたか。こりゃあなかなかの名僧だ」
   思うて、いよいよ感心し、今度は指を三本差し出した。「三界は?」と尋ねたつもりだ。

ところが利吉さん、 ほほ〜う、このどけち雲水めが「三文にせい」言うたな。赤んべえ〜じゃ!!
思って・・・・ 目の下に指を当て、あっかんべえ〜〜〜〜〜〜 を して見せた。

雲水は、ははあ、「三界は眼の下にあり」と解いたか。この老僧にはとてもかなわん。思うた

雲水:「とても拙僧らの及ぶところでござらん。いかにも名僧知識でござります」と言って、
こそこそ逃げるように、庵から立ち去って行ってしまった。 後から見ていた寺の和尚さん、

和尚:「利吉さん、なかなかやるじゃあないか。えらいもんだなあ」言うたら、

利吉:「ああ、雲水じゃあ何じゃあいうて、役に立つもんじゃあありませんがな。はじめ、
    うちの饅頭のことを聞きよりましたが、しまいにゃあ値切るけえ、赤んべえをして
    やりましたら、とっとと逃げて行ってしまいましたがなあ」いうて話したそうな。

和尚:「ともかく、利吉さん、ようやってくれた」 和尚さんはたいへんに感謝したぞな。


「岡山の笑い話」稲田浩二・稲田和子著よりあらすじを引用し改変

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